前回の記事の続きです。
イヌアは「イノベーティブ」と言われていますが、
それはミシュランが便宜上分類しただけで、シェフの想いとしては、
日本にインスパイアされたスカンジナビア料理
なんだそうです。
かといってスカンジナビアの郷土料理ではないそうです。
シェフは固定概念がなく、
道の雑草でも、木の皮でも観葉植物でも食べてみるんだそうです。
そして「この木の皮を使ってみよう」と閃いたら
テストキッチンで様々なチャレンジをしているそうです。
半分以上、試作は失敗するそうですけどね。
こういったところがイヌアは「実験で作った料理」
と言われる部分なのかもしれませんが、
これがアリと思えるか思えないか…。
私には「イノベーティブ(革新的)」
というありふれた言葉でしか表現できませんけど、全然アリでした。
見た目では味が分からない料理。
食べても頭をフル回転させなければ分からない料理。
それが結果的に、おいしい。
新しい扉が開いた気がします。
炭焼きした野生の鴨、かやの実ソース、レモンタイム
宮崎県産の小鴨2週間熟成したそうです。
イヌアは「熟成」「発酵」というワードが良く出てきますが、
スカンジナビア料理も日本料理同様、熟成、発酵が多く使われているそうです。
写真をよく見ると、小鴨は丸焼きですよ。
これをお箸で、ソースにつけて食べます。
ソースはカヤの実、松の葉の新芽、グリルしたレモンタイム、山椒の葉。
これはお肉だけあって分かりやすい料理です。
いつも我々が食べている、おいしいお肉料理。
しかしソースが違います。
テクスチャーがザラザラしています。
ザラザラなんて食感、駄菓子屋にあるソースせんべいのソース以来です。
でもおいしいんだよな。
なんでだろ。
ワインの写真は撮り忘れ。
炊きたてのななつぼし、ブナの実と鴨
最後は日本のスタイルに合わせてお米料理です。
ブナの実以外2種類の調理法の豆、松の葉の新芽、山椒の実が入っています。
これはチキンの出汁と鴨の脂で作った、パリッとしたシート。
パウダーは、椎茸とハイビスカス。
ご飯をよそうと、シートがパリンと割れます。
中は空洞でした。
やっぱり味が想像つかない…。
まず一口食べると、オイルの味がします。
そして山椒の風味が来て、全体的に和テイストです。
しかし安心するのはまだ早い。
次から次へと新しい風味が来るので、口の中が「お前は誰だ?」状態です。
ブナの実などのホクホクした豆の食感、山椒の辛さ、
松の葉がもたらす、グリーンの風味。
イヌアの料理全体的に言えることですが、
おしゃべりをしないで味に集中しないと、良さがわからず難しいです。
これも話しながら食べたら、きっと『豆の歯ごたえのある混ぜご飯』
で終わってしまう気がします。
野生の鴨の盛り合わせ
先ほどの小鴨が再登場
上から頭、手羽、もも。
背骨もあります。
クチバシもそのままですよ。
これも私たちはバリバリ食べました。
残したのは、手羽とももの骨だけ。
お口直しは、長野県で採れる、サルナシです。
サルナシは小さいキウイと呼ばれているそうで、酸味が強いです。
一口食べると、すっごく酸っぱいキウイなんだけど、野性味があふれています。
一般的なキウイとは違います。
これは酸っぱいもの好きにはたまらない。
一緒にサーブされたのはこちら。
熟成させたビーツと洋梨をシート状にして、
中にはナツハゼというベリーのコンポートが入っている一品。
これはサルナシの酸を中和してくれる甘味があります。
しかし上にはローズが添えられているのでお花の香りがして、
野性味がさらに強くなるんです。
デザートなので、甘口の貴醸酒です。
貴醸酒とは、お水ではなくお酒で仕込んだお酒。
独特な甘味があります。
キャラメライズした麦麹のアイスクリームと蜂蜜で漬けた松ぼっくり
このスイーツもおいしかった!
麹で作ったアイスクリームはほのかな甘さ。
オイルは桜の木の枝から味を抽出したオイルの香り。
蜂蜜に漬けた松ぼっくりの苦み。
一つずつ食べてみましたが、それぞれがおいしい。
しかしそれをまとめて全部すくって食べると、味が二乗にも三乗にもなる。
今まで味わったことのないアイスです。
松ぼっくりを食べたのは初体験ですが、
銀っぽい感じでした。
銀紙を齧った、あの感じ。
もちろん歯が浮いたりはしませんが、松ぼっくりの苦みが、
子どものころに齧った銀紙に似ていました。
アイスクリームにこういう苦みを入れてくるところも斬新。
ワカメのミルフィーユ
ワカメによく似た海藻のひとつだそうです。
手でつかんで一口で齧ってください。
と言われましたが、結構厚みがあるので、半分ずつにしました。
イヌアだと海藻が小菓子になっちゃうんですね。
「最後にキッチンツアーはいかがですか?」と勧められたのでお願いしました。
私たちは割と最後の方まで残っていたのでガランとしていますが、
ここがメインのキッチンです。
舞茸をスモークしている最中だそうです。
これが今回何度も登場したブナの実。
皮をむくのがとても大変なんだそうです。
熟成棚
様々な温度、湿度で管理されているそうです。
奥にあるのはテストキッチン
ここでたくさんのテストが行われているそうです。
イヌアが「実験料理」と言われる心臓部ですね。
こんな大切なところも惜しみなく見学させてもらえますが、
反対側には事務スペースがあり「ここも撮影可能です。どうぞどうぞ」
なんて言われました。
パソコンやらファイルやら、見るからに事務机が並んでいましたけど、
意外とテストキッチンよりもこちらの方が激アツだったりしてね。
個室も見せていただきました。
12名まで対応可能だそうです。
最後はシェフとの写真撮影をお願いしましたけど、
その場にいるスタッフ全員を呼んでくれて、20人くらいの集合写真となりました。
これもサービスのひとつのようで、
たくさんの方がキッチンツアーの後に撮っていましたよ。
<総括>
賛否両論のイヌアでしたので、訪問するまでは不安でしたが、
初めてロブションに行った時の感動を思い出しました。
世の中にはまだまだ素晴らしい料理がありますね。
新たなおいしさに出会えて感動です。
今まで私たちは、食材をこねくり回すのを「良し」とせず、
素材で勝負して欲しい方だったのですが、
ここは初めて「おいしい」と思えたお店です。
グランメゾン東京では「実験的な料理を作っている」と敵対するお店でしたけど、
私たちとしてはgakuが勝った感じです。
この翌週、カンテサンスに行ったんですが、やはりイヌアの方が良かった。
カンテサンスも13年連続3つ星ですので、もちろんおいしかったんですけど、
イヌアの方が衝撃的でした。(詳細は後日記事にします)
サービスもとても良かったです。
2つ星獲得店だというのに緊張した雰囲気はないし、スタッフは皆フレンドリー。
誰にでも声をかけやすいし、雑談もしやすい。
最後のキッチンツアーや集合写真は、とてもいいサービスだと思います。
帰る前、立ち話をしていただけなのに
「何か飲み物でもお持ちしましょうか?」と声をかけてくれるスタッフもいましたね。
みんながおいしいというお店がおいしくない時があったり、その逆があったり、
万人に受けるのは難しいと思うし、味の好みが外れたら苦痛だと思いますが、
ハマる人はハマるような気がします。
合計金額は二人で¥47,800円(税・サ込)
新しい扉を開けてみたい方、
星飛雄馬の大リーグボールを受けてみたい方には是非お勧めです。